当院で昨年よりご勤務頂いている、循環器内科専門医、総合内科専門医・指導医 御領豊先生によるコラムです.
今回は高血圧についてご説明いただきました.
はじめに
高血圧(症)といっても,ホルモン異常等の病気や他の原因があって起こるもの(二次性高血圧)もありますが,ここでは一般的に言われている生活習慣から起こってくる高血圧(本態性高血圧)についてのお話です.
高血圧に対して治療中の患者様から日常的によく聞かれるご質問に対して考えていきたいと思います.
「もう年(高齢)だから,血圧は高めでも良いでしょう?」
そもそも,血圧が高いと何が良くないのでしょうか?
それは血管の壁にプラークと呼ばれる脂などの物質や細胞が蓄積(動脈硬化)していき,血液の通り道を狭くなることでその先へ十分な血液が届かなくなったり,動脈硬化の部分が破れて血液の塊(血栓)が生じて血管を詰めてしまいます.
有名な病気としては,これが心臓で起こる狭心症,急性心筋梗塞,あるいは脳の血管で起こる脳梗塞です.
また血管も脆くなり破れやすくなるので,脳出血も起こしやすくなります.
動脈硬化がどの血管で強く進むかは,人それぞれですが,高血圧を放っておくと心筋梗塞のような命に関わる事態に至ったり,脳梗塞・脳出血の後遺症によって麻痺や脳機能の低下等に苦しむことになってしまう可能性が高くなる訳です.動脈硬化が進みやすい危険因子は他にもあり糖尿病,脂質異常症,喫煙,肥満といった生活習慣に関わるものが主となっています.
つまり,血圧を良い状態にすることで,血管の病気を予防して「今の身体や脳の機能を維持しながら十分に生きていきましょう」という事です.
では,ご高齢の方ではどうでしょうか?
加齢だけでも動脈硬化は進むとされていますので,ご高齢の方ほど血圧は良い値であることが望ましいことになります.実際に我々,医師が教科書のように参考にしますガイドラインでも,以前から高齢者が一般的な高血圧の定義となる140/90mmHgを超えていてOKとは書いてありません.
つまり,動脈硬化の予防の観点からは,ご高齢だからといって血圧が高めでも良いということは一切ありません.
もちろん目標となる血圧値は,年齢や抱えておられるご病気によって変わりますので主治医へ確認をして下さい.
「薬は一生飲み続けないといけない?」
まず高血圧の治療についてお話します.
治療の第一歩は食事療法と運動療法です.
特に食事療法が有効といえ,食事の中で血圧に影響の大きいのは塩分ですが,高血圧の方では1日6gまでが推奨されています.
しかしながら,徹底した食事療法は精神的にも生活環境的にも難しい方が少なくありません.
結果,食事・運動療法をしても目標値達成できない方,あるいは食事・運動療法が十分にできない方は薬に頼らざるを得ません.ですので薬によって血圧が目標値を達成されている状態では薬は基本一生ものとなります.
では,薬を減らしたり,中止することは可能でしょうか?
もちろん,薬の代わりに血圧を下げる治療を強化し,それによって目標値を達成すれば可能となります.
血圧を下げる治療は基本,食事・運動療法と薬ですので,薬の代わりは食事・運動療法しかありませんよね.
食事・運動療法を強化しないのに薬を減らしてしまうと,その分血圧が上がってしまうのは当然の事となります.
「この薬は強いと聞いたけど大丈夫?」
おそらく副作用に対してのご心配と思います.
ステロイド剤や抗がん剤のように副作用が目立ってしまうお薬もありますが,降圧薬に関して言えば常に副作用を伴うような薬はありません.
では,何が「強い,弱い」のかですが,降圧薬の中には血圧を下げる効力が強い,弱いといった差があります.
先に述べましたように,血圧管理で大事なことは動脈硬化を予防するために目標値を達成しておくことですから,その数値まで下がるような効力としての強弱を考えて我々が降圧薬を選択させていただくわけです.
薬が代謝される肝臓や腎臓の機能や心臓の機能が低下した方へは副作用の一部を意識して薬の選択を行いますが,「血圧を下げる効力が強い=副作用が多い,副作用が出やすい」といったことではありません.
まとめ
今回は循環器内科専門医の御領先生に、患者さんとの会話の中でよくご質問いただく、3つの質問に対して回答していただきました。
1:高齢でもしっかりと血圧を下げることが大事
2:運動療法や食事療法が十分にできるのであれば、高血圧の薬は減量していくことも可能
3:血圧を下げる力の強さと副作用の強さは無関係
これからも当院では最先端の文献情報をもとに, 患者さんに治療を行ってまいります。
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